インプラントとは何でしょうか?
今、巷ではインプラントの広告を目にする機会が多いと思います。
インプラントにしたら
『かみ易くなる』
『違和感が少ない』
『まるで自分の歯のように自由にかむ事ができる』
『第三の永久歯、夢の治療法』 |
等のインプラントの利点は
かなり強調されて伝えられていますので、皆さん良くご存じだと思います。
しかし、どんなものにも利点・欠点があるように、インプラントにも欠点があります。
インプラントというのは、顎の骨の中に人工の歯根を埋め込み、そこに実際の歯に代わるものを固定する方法です。
インプラント治療が成功して素晴らしい食生活を送っておられる方がいる反面、テレビ・新聞・雑誌等でインプラントにまつわる悲惨な事故が報道される度に胸が痛みます。
ここでは、インプラント治療に興味のある方のために、「成功するインプラント治療」と「うまくゆかないインプラント治療」に関して少し考えてみる事にしましょう。
インプラント治療はどのようにして行われるのでしょうか?
最近では、その術式も新しい方法が研究・実用化されていますが、おおむね次の様な手順で行われます。
①まず歯茎を切開して、ドリルで顎の骨に穴をあけます。
②この穴に、チタン等でできた「人工歯根」を埋め込みます。
③人工歯根を埋め込んだら、これが骨にしっかりとくっつくのを待ちます。
インプラントが骨としっかりくっつくまでには、少なくとも数カ月はかかりますから、その間は歯が抜けたのと同じ状態です。
最近では、インプラントを植え込んだ直後に、インプラントの上に入れ歯を乗せて、その日の内にかむことが出来るという術式が
開発されていますが、インプラントと骨の結合という観点から、私はこの方法には疑問を感じています。
③数ヵ月してインプラントが骨としっかりくっついたら、もう一度はぐきを切開します。
今度は、人工歯根(インプラント)に突起を装着します。
この突起は、実際の歯に代わるものを取り付けるためのものです。人工歯根に突起を取り付け、突起に冠や入れ歯を取り付けるわけです。
④歯茎から突起が出ている状態で、何週間か持ちます。
実際の歯に代わるものはすぐには取り付けられないからです。
なぜなら、歯茎を切開したときに傷ができるからです。実際の歯に代わるものは、傷が治ってから取り付けるのです。
⑤傷が治ったら突起に義歯を取り付けて「治療」は終わりになり、あとは維持・管理に移行します。
さて、この一連の処置流れのどこに問題があるかを理解していれば、事前にトラブルを回避でき、成功するインプラント治療を受ける事ができます。
まずは最初の外科的処置です。
顎の骨に穴をあけるという行為には言うまでもなく大きな危険を伴います。
インプラント治療の方法は、大学では学生には実際の臨床としては教えられていません。
歯茎を切ったり縫合したりする処置、あるいは骨に穴をおける処置は、大学卒業後に希望する先生が自分で研修先を見つけて勉強するというのが現状です。
こうした外科的処置はさしてむずかしいものではありませんが、経験の浅い歯科医ならうまくゆかないケースも出てきます。
実際、下顎の骨の中にある大きな神経や血管が通る管や上顎の鼻腔に達するほどの穴をあけてしまった事例が報告されているのはテレビなどの報道で既にご存じの事と思います。
経験の豊富な歯科医が常勤している検査・滅菌・良好な手術環境を持った医療施設で、
手術を受ける事が大切だと思います。
かみ合わせが一時的に狂う
第二の問題点は、かみ合わせ全体のバランスが狂うということです。
先ほど述べたとおり、インプラント(人工歯根)を入れてから良ければ数カ月は歯が抜けている状態です。
ようやく突起を埋め込んでも、すぐには実際の歯に代わるものを取り付けられません。
つまり、数カ月間はお口の中で明らかにかみ合わせ全体のバランスに不具合がおこる状態です。
これは結局、噛み合わせを狂わせてしまうのは言うまでもないでしょう。
この時期には、『仮歯』として何かを作製して、お口の中に入れて、
ちゃんとかむ事ができる様にしておけば良い事になりそうですね。
「骨に刺さったトゲ」
第三の問題は、インプラントの材料が顎の骨にきちんとくっつかない恐れがあるということです。
簡単に言えば、きちんとくっつかない危険があるのです。
インプラントに関する初期のトラブルで一番多いのは、「ちゃんとくっつかなかった」ということです。
土台を骨に打ち込むのだから、簡単には落ちないのではないか・・・・。
そう思う方も多いかもしれません。
しかしインプラントは、人体にとっては異物です。
どんなに適合性のある素材を使ったところで、異物であることに変わりはないのです。
人体には、異物を排除する働きがあります(異物排斥作用)。
たとえば指に刺さった『トゲ』を放置しておくと、炎症が起こります。
これはトゲという異物を排除しようという免疫反応です。
同じことがインプラントにも起こりうります。
ある生理学者は、インプラントを指して
「骨に刺さったトゲ」
と言っていますが、これはまさに正鵠を射た表現だと思います。
この状態になったら、残念ながらインプラント自体を諦めた方が賢明でしょう。
インプラントには咬む力の緩衝作用が期待できない。
第四の問題点は、インプラントには歯根膜がない、ということです。
天然歯には歯根膜という「歯と顎の骨をつなぐ」線維組織があります。
この歯根膜は「歯と顎の骨をつなぐ」という役割のほかに、「ものをかんだときの衝撃を吸収する」という、きわめて大切な役割があります。
しかしインプラントには、衝撃を吸収するためのクッション作用がありません。
インプラントと顎の骨は癒着してしまうからです。
そのため、ものをかんだときの衝撃が、そのままに顎に届いてしまい、その結果、顎の骨が障害を受けたり、インプラント自体が折れたりてしまうケースが出てきます。
この状態は『現在のインプラントの泣き所』のひとつで、
最終的にはインプラントを除去して別な方法を考えた方が良いでしょう。
インプラントが顎の骨と癒着してしまう為に起こる不都合もある。
皆さんの中に、歯に装着してあった冠が外れたが忙しくてなかなか歯医者に行けず、2か月以上経ってから外れた冠を持って歯科医院に行ったが、隣の歯が傾いたり、歯が伸びだしていたために再合着できなかったという経験のある方がおられると思います。
また、以前作った入れ歯を使っておらず、久しぶりにお口の中に装着しようとしたら、きつくてどうしても装着できなくなっていたという経験をお持ちの方も多いと思います。
歯はお口の中が常に安定してかみ易くなるように、自然に移動する力を持っています。
歯に被せた冠が外れると、その歯と接触する前後または左右の歯との間に隙間が出来ます。
また、対合する歯との間にも隙間ができてしまいます。
この状態は、効率よく食べ物を咀嚼するのに都合が悪い状態です。
そこで、周囲の歯が動いたり、伸びだしたりして、かむのに都合の良い状態になろうとする作用が働きます。
暫くすると、最もかみ易い状態になり、その状態で落ち着きます。
冠が外れたり、折角作製した入れ歯がきつくて装着出来ないのは、このように歯自体に動く性質があるからです。
極端な言い方をすれば、歯はいつも動き回って良くかめる状態を模索し、ある時は新しい位置に落ち着いたり、また元の位置に戻ったりします。
さて、このようなお口の中に1本のインプラントが入ってくるとどうなるでしょう?
手術が無事成功し、顎の骨とインプラントが癒着すると、自由に歯が動ける環境にあった歯列の中に1か所だけ絶対に動かない場所が出来てしまう事になります。
こうなると、インプラントを境目にしてその左側と右側で歯の動きは別々なものにならなくてはならず、お口の中全体として見ると歯列のバランスは
確実に狂ってくる事になります。
さらに、自分の歯には歯根膜があり、ものをかんだときはわずかに沈みます。
インプラントは全く動きません。
同じ歯列の中に、物をかんだ時に動く歯と、全く動かないインプラントが同時に存在すると、食べ物をかむときの顎が受ける力に微妙な誤差がおこります。
始めの内はあまり気にならないと思います。
しかし、何千回・何万回とかむ動作を繰り返してゆく内に、全く動かないインプラントに大きな負担が加わる事になります。
この不都合は、インプラント周囲炎・インプラントの動揺・顎関節症といった状態をいつのまにか引き起こします。
もし、こうなってしまったら、インプラント自体を除去して別な方法を考える事になりそうです。
さて、ここではインプラントの問題点とその回避法について述べてきました。
これに関しては山形屋歯科坂上医院ホームページの『インプラント』の項目のインプラント治療で後悔しないためににも記載してありますので、興味のある方はご覧下さい。
無くなってしまった歯を、インプラント治療で治そうとする場合には、主治医の先生と良く相談して十分に納得してから治療を開始して下さい。
|